メイド論争

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メイド論争出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
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メイド論争(メイドろんそう)とは1993年7月にスウェーデンエコノミストであるアン=マリ・ポルソン(Anne-Marie Pålssonのちに保守党の国会議員)が家事サービスへの税控除制度についてのアイディアを提出したことから始まった論争である。

目次
1 提案
2 反論
3 結果
4 出典

提案 [編集]アン=マリ・ポルソンは家事サービス控除導入の利点として以下の6項目を挙げた。

1.効率化
専門家にまかせることにより家事が効率化され生活の質が向上する。
2.雇用創出
家事サービス産業という新規雇用を創出することにより、失業率が低下する。
3.平等
女性が家事の負担なしに働けることによって、女性の社会進出が進む。
4.正義
家事サービスを産業として保護することによって家事労働労働者の権利が守られる。
5.モラル
これまで闇労働として、税金や社会保障費を支払わない状況を改善できる。
6.公共セクターの効率化
―個人的な解決をすることで、公共サービスの縮小が期待できる。
減税額は1人につき年間5万クローネ、1世帯では年10万クローネとして、年間約10億クローネの減税になると試算していた。

反論 [編集]フェミニズム派や社民党から、この政策はメイド(女中)制度にもどる前時代的女性差別と階級再編であると批判したのがマスコミに取り上げられ、「メイド論争」と名づけられ、国中の議論になった。

控除があるとはいえ割高な家事サービスの支出ができるのは一部の裕福層のみになる。
ブルーカラーの低賃金層の女性にとって自分の家庭と裕福な家庭での二重の家事労働をすることになる。
結果 [編集]家事サービス控除は2007年7月1日に施行され、2008年3月5日に申請が締め切られるまでに4万件の申請があったが、予算よりかなり少なく、現政権は改善を提案中。

出典 [編集]「経済政策とフェミニズムスウェーデン・メイド論争にみる分岐」榊原裕美
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%89%E8%AB%96%E4%BA%89」より作成
カテゴリ: スウェーデンの政治 | フェミニズム | 租税 | 議論と対立
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スウェーデン・メイド論争にみる分岐榊原裕美(横浜国大大学院博士課程後期)



メイド論争とは

メイド論争は、1993年7月 エコノミスト、アン-マリ・ポルソン(Ann-Marie Pålsson 2002年から穏健党国会議員)が、家事サービスへの税の控除の制度についての提案したことに端を発して、大きな反発が起こり、さまざまな媒体でされた一連の議論のことである。女性の家事負担を減らすために、家事サービスを購入した費用について税金を控除(還付)しようという政策提案だったが、即座にそれはメイドを復活させることなのかという反論がおき、「メイド論争」と呼ばれるようになった。

アン-マリ・ポルソンの主張では、この控除制度導入の利点は以下あげられる。

1.効率性の観点―専門家によりまとめることにより家事が効率化される。

2.雇用創出の観点−新しい家事産業という新規雇用を創出することにより、失業率が低下する

3.平等の観点―女性が家事の負担なしに働けることによって、男性並みに平等に仕事ができる条件ができる。

4.正義の観点―きちんとした産業にすることから家事労働労働者の立場が守られる。

5.モラルの観点―これまでいわゆる闇労働として、脱税の多い労働となっていた慣行を改善できる。

6.公共セクターの削減からの利点―個人的な解決をすることで、公共セクターの予算削減からの利点がある

この提案によって引き起こされたメイド論争に関するおもだった論評をここにあげてみよう。

1993年7月 アンマリ・ポルソンが、家事サービスへの税の控除の制度について提案。大きな反発が起こる。 

1994年   「論争:それで、二重の労働をしている女性はいくらの時給がもらえるのか?」

日刊工業新聞(Dagens Industri)

1994年    アン−マリ・ポルソン「家事労働の市場はあるか」

      リトヴァ・ゴー「女中から社会の家政婦へ」

初期福祉国家における女性の場シンポ

1995年 「論争:移民に家の掃除をさせろ!」(Dagens Nyheter)

 「女性とキャリア」SAF(スウェーデン経営者総同盟)刊行物2号、7号

「メイドの何が間違っているのか」「持つべきか持たざるべきか−メイドをめぐるフェミニストたち」フェミニスト文化雑誌Bang 2号

1996年 「移民、家政婦、新しい労働市場政府刊行物(SOU) 

1997年  「育児サービス―女性の解放?」女性の科学誌

     「家族に潜む権力 スウェーデンの平等社会の理想と現実(邦訳:青木書店)」

政府刊行物SOU

1998年   レニー・フランギュール「職業婦人か夫の召使か?

戦間期スウェーデンの既婚女性の職業の権利に関する闘い」ルンド大学

     「女性の権力調査からの考察 合理的な生活と平等なスウェーデンという神話」

     「メイドに控除、男手には課税?サービスセクターの税制と雇用創出」

経済論争7号 国民経済協会

1999年  リサ・エーベルグ社会民主主義のジレンマ 女中問題からメイド論争へ」

     『女性対女性 シスターフッドの困難について』シンポより

2000年  スヴェン−オケ・リンドグレン「経済犯罪:妨害された社会問題」ルンド大学

2002年  エリノア・プラツェル「文化的交流か安い労働力か?スウェーデンのホストファミリー」ルンド大学

2003年  エリノア・プラツェル「ジェンダー契約と社会の多様化 キャリア志向家族の家事サービスの需要について」ルンド大学

2004年  エリノア・プラツェル 「存在しない法律を探る―スウェーデンの家事サービスを例に」

2005年 「メイドの解決は、男を家事から解放する」(DN )

2006年  アンナ・ガバナス「口にできないもの:メイド論争のスウェーデンにおける平等、“スウェーデン的なるもの”、そして民間の家事サービス」政府刊行物

      エリノア・プラツェル「私的な解決から、公的な責任へ、そして再度戻る

 スウェーデンの新しい家事サービス」(Gender & History

2007年 マヤ・セデルベルグ「State of the Art 理論的展望とスウェーデンの論争」FIIP

エリノア・プラツェル「誰が家事労働を担うのか?ライフスタイルの維持における家事サービスの機能と中産階級ジェンダー分業」

     エリノア・プラツェル「『国民の家』から「キャリア世帯」へ」

10年以上にわたるこうした議論の中、2006年の政権交代によりこの家事サービスの控除制度は、2007年7月1日に施行されることになった。2008年3月5日に申請が締め切られたが、約4万件の申請があったという 。2008年3月18日付のDN(Dagens Nyheterスウェーデンの有力日刊紙)には、この控除がビジネスをゆがませるとの見出しで控除を活用して従業員の賃金をカットする企業の思惑を紹介、Sweden Radioでは偽装申請が多いことなど報道されているが 、実際の政策の評価についてはもう少し時間がかかるであろう。ここでは、90年代からのメイド論争が投げかけているものについて考察してみたい。

メイド論争とスウェーデン社会の階級意識

この制度は実はすでに他の北欧のデンマークフィンランドでは導入されている。しかし、スウェーデンにおいては、多くの人を巻き込む論争となった。

エスピン・アンデルセンを編者とする各国の労働市場規制緩和についての比較研究で、この政策についてのデンマークスウェーデンの違いがこう述べられている。

清掃や在宅ケアなどの対家庭サービス業で雇用創出を促進することに関しては、スウェーデンデンマークの政治的支持は大いに異なっている。デンマークはこのような雇用のための補助金制度を設けたが、スウェーデンではこの種の雇用政策について非常に長い検討時間が費やされることになった。この問題はある程度まで社会民主党を分裂させることになった。左派はこのような計画には反対していたからである。同党の右派と非社会主義政党はこの計画を強く支持し、彼らの反対者を消極的過ぎると非難した。実際、議論はこの種の計画で失業を減らすことは可能かという問題についてだけでなく、イデオロギー的な要素を含んでいた。対家庭サービスへの助成計画に対する反対者たちは、ここから創出される雇用の社会的地位は、たとえば「メイド的な仕事」のそれであろうとしばしば述べている 。

デンマークにおいては、「ホームサービス制度」が1994年試験的に始まり、97年に法律化された が、社民党の提案によるものだった。しかしスウェーデンでは最初に提案された1993年の7月から2ヵ月後、スウェーデンの政府の政権が右派のブルジョアブロック政権に交代した。今回またこの政策が実際法律として成立した昨年2007年7月も、その前年2006年9月の総選挙で政権交代があった 。こうした政治背景を反映しての論争だったのだ。

7月の成立に先立って、LO(スウェーデン労働組合)は、2007年4月18日のLOニュース において、この減税提案を批判した。LOの批判には、この10年の論争が反映されている。

「平等―それは富裕層が買って手に入れるものなのか」

 家事サービスの減税が現在政府から提案されている。この減税によって大きい利益を得る世帯とは、今すでにかなりの家事サービスを購入している世帯であり、現在、社会から経済的援助を必要としている家族ではない。・・・・

 政府提案によると、減税の上限は、一人につき、年5万クローナ(約80万円)で、世帯では年10万クローナ(約160万円)になる。もし家事への経済的援助を必要としているなら、20万クローナ(320万円)の家事サービスの購入―この合計は、世帯で雇用された者一人が、1時間90クローナ(1440円)で、少なくとも週に23時間働くのと見合う額だ―は問題にならない。この

種の出費ができる世帯は、経済的な援助を必要とすることはない。

今すでにある家事サービスの消費にする減税は、約10億クローナ(160億円)にもなるであろうが、それは普通の世帯からの富裕な世帯への贅沢すぎる贈り物としか思えない。・・・

政府は、この減税は女性にとって好意的で、平等に対する努力の一手段だと擁護する。しかし、平等は、富裕な家庭内でのLO(現場労働者)の女性たちの仕事に政府が助成すれば促進されるというようなものではない。個々の生活の範囲内で個人にとっては好都合かもしれない、が、男らしさ女らしさの伝統的な見方がより深く根付くことになる。そして平等は、ひとにぎりの富裕な家庭だけが購入できるものになってしまうだろう。

 この提案が雇用を生み出すという主張もあるが、実施したフィンランドデンマークでの調査では、わずかばかり闇労働を減らすだけで、効果は不十分だと判明している。

 

政権から下りた今も第1党である社民党の母体で、80%の組織率を誇るブルーカラー労働組合LOでは「ジェンダーと階級」をメインテーマに掲げている。

環境保護の観点からも、EUレベルでの考え方と、スウェーデンではかなり異なっている。EUがサポートする「持続的なホームサービスプロジェクト」では、「持続的な家事サービス」を生活の質にボーナスをもたらすとして評価している。製品を基本とした消費から、各家にサービスを分配すれば、費用の節約になるし、市民の生活の質を高めることになって、エコロジー的な効率性を高めると賛同する 。それに対して、スウェーデンの連立のブロック政治の中では、どちらかといえば右派と左派の中間にあるとされる、環境党は、「家事サービスの減税の提案も、特定の産業の雇用主の負担を少なくすることも、明らかに富裕階級の消費モデルを目指す方向である。」と、この政策に反対である 。

現在、新自由主義的な思想と政策が、まるで前世紀に時間を逆戻りさせようとするかのような格差拡大の反動性を持ちながら世界を席巻している。20世紀の二つの大戦の内含するナショナリズムに基づく総動員体制が、階級融和の役割を担い、戦後期その融和を自明のものとして、70年代までに稀有な平等な社会をもたらしたが、大戦にさえぎられた歴史観の中で私たちは、大戦の持つ総動員のシステム以前、各国で見られた階級対立、社会主義運動への流れをもはや継承していないようにみえる。戦後の否定が、先祖帰り的な様相を示しているのは、こうした歴史の忘却によるものが大きいのではないか。

強固な中立政策により戦争に巻き込まれなかったスウェーデンにおいては、20世紀のはじめの大恐慌や、世界の社会主義潮流の中で初の議会による社会主義政党が政権をとった国として、階級問題が、現在まで継続していることにより、メイド論争が引き起こされる背景があるのではないだろうか。そして、このスウェーデン人の歴史観は、私たちの今いる新自由主義的なグローバリゼーションを見定めるために重要なものではないかと思われる。

プラツェルは、こうした歴史貫通性の中で、1930年代と、1960年代から70年代、そして1990年代から2000年代に分けて、家事労働について個人的な解決から、政治的・社会的な解決を経て、再度個人的な解決に戻っている変遷を指摘している 。

社会学者であり、女性運動活動家およびノーベル平和賞受賞者でもあるアルヴァ・ミュルダールがかつて、家事労働者を平等の解決策のひとつとしてあげた が、こうした自己解決の残滓をもっていたミュルダールの時代の後、1930年的な意味での国内経済格差を活用する形での家事労働者は、どの「先進国」でも激減した。代わって、「家事の合理化」が進み、家電製品の普及などを始めとして、家事を重労働で汚い仕事から解放した。家電製品の新規市場の拡大は、製造業の発展へとつながり、工業社会型の経済発展を支えることにもなった。家事労働の合理化とタイアップした生産の技術革新による消費と生産の発展として、高度経済成長という資本主義の伸張に寄与することとなった。その後50年から60年の女性の社会進出を経て、スウェーデンは、公的な解決を図り始めた。

スカンジナビアフェミニズムの国家論は、女性がプライベートな依存からパブリックな依存に動いたとよく主張される。・・・スウェーデンデンマークのような国では女性たちは公務員や、社会サービスの消費者として国家に頼る。一方アメリカやイギリスでは、庇護を受ける者として頼るのである。

スウェーデンでは、女性の多くは、労働組合と関係の深い社民党を支持してきた。したがって、スウェーデンでは、組織化されたシステムを通して労働者グループとして扱われる利益を得ることで、女性の平等戦略が遂行された。が、英米などの他の国では、平等戦略は女性たちが個人として扱われるシステムを通して主に遂行されたのだ。

しかしそれが、80年代から変わり始め、90年代に再び自己解決の方向に向かい始めている。

こうしてグローバルなレベルでの階級再生産の回帰、女女間格差としてのジェンダーのさらに深化した再編成が起こっている。そこでは男性の家事責任を不問にすることで、ジェンダー的な秩序を変えずに女性の中での階層を再生産する30年代的な状況へ立ち戻っているともいえるし、今日的な英米的私的解決の方向に影響されているとも言えるであろう。

 E-アンデルセンによれば、伝統的な性別分業家族と男性世帯主の家族賃金保障を重視した高

度成長時代の福祉国家は過去のものである。90年代以降の「ポスト工業経済」の下では、・・・女性雇用の増大が進んでいく。それにともない有償と無償労働との矛盾が、つまり家族の「ケア」のための時間的制約が深刻化していく。しかしそのような経済的、社会的変動こそが多種多様なサービス受容を作り出し、新しい雇用機会を生み出していく。E-アンデルセンによれば、このように家族や世帯内での「ケア」の不足は多様な社会的ケア・サービスによって補完される。ケア・サービスの供給に政府が不可欠な役割を果たしつつ、しかし福祉サービスの生産が、適切に国家、市場、家族に配分される新しい「福祉レジーム」を展望しているといえよう。

と久場が引用するように、E・アンデルセンのいう製造業に代わるポスト工業社会の中心的な産業であるサービス産業の「ケア」が、家事サービスに反発するスウェーデンにおいても、受容したデンマークにおいても、何によって補完されるか、すなわちここでいうこの新しい「福祉レジーム」の選択は多くの国の政策にゆだねられている。

メイド論争がスウェーデンで起こったのは、これまでのスウェーデンが選択的にとってきた、不平等を解消する集団的なあり方を転換するイデオロギー的内容が、家事サービスの控除制度という政策の中にあるからであろう。この論争によってスウェーデンの既存フェミニズムや女性政策、また、他の国の受容過程と異なるコンテキストの存在が可視化されるが、普遍的な今日的な左派と右派の経済政策のせめぎあいの象徴的な現出として、今日のグローバリゼーションを含む経済の方向性の問題点を、きわだたせるものとしてあるのではないだろうか。

右派政権になっても、さらに女性の国会議員を増やし、内閣も約半分が女性であるスウェーデンの女性の社会進出としてのフェミニズムは左右のどちらに振れても変わらないように見えはする、しかし、その政策にはあきらかな左右の分岐が見られるといえるのではないか。

社民主義的な女性解放とマルクス主義フェミニズムの超克

 プラツェルが先に述べた公的な責任においての女性の家事労働の保障は、スウェーデンでどのように行なわれていったのか。

中立政策によって二度の大戦に巻き込まれなかったスウェーデンは50年代にすでに、合理化を成し遂げ、生産過程の単純化と規格化を進めたため、非熟練の労働力の需要が増大した。合理化で、男性よりも安い女性の労働力が意図的に代用される事は戦間期に証明済みで財界の合理化推進者は「女性の労働力は安いので、高い男性を減らし、単純作業をする大量の女性を雇うべき」と薦めた 。

こうして戦後、朝鮮戦争の好景気の影響を受け、賃金が高騰した1950年代、ストの代用労働者として女性労働者が登場し、男女差別が問題になったのであるが、スウェーデンでは男性の労働条件を低くする女性労働の参入を、例えば70年代の日本のように、家庭を家庭に戻すことで解決するのではなく、女性を組織労働者にすることによって回避してきた。

スウェーデン、ドイツ、アメリカのジェンダー、市場、国家の相互作用」の論文の中でモーセスドティエルが明快に以下のように記述している。

1960年代はじめ、高度成長の労働力不足が、既婚女性を製造業に引き出した。しかし、60年後半から70年前半の間に、オイルショックと後発国の追い上げによって国際市場のシェアを失っていった輸出関連製造業セクターの雇用機会は厳しくなった。連帯賃金と小企業への累進課税も民間の雇用の伸びを妨害した。男性が民間セクターで働き続ける一方で、政府は積極的労働市場政策によって、女性を製造業の熟練労働から公共セクターで生み出されたサービスセクターへと移した。1960年に、女性グループはLOや社民党に圧力を加え完全雇用と平等に取り組ませた。LOや社民党は女性を賃労働に参加させ、福祉サービスの充実のためにパートタイム労働を活用し、女性を労働市場にひきつけた。70年代から80年代にかけて、地方自治体では女性の直接雇用を生み出した。1960年代に製造業で一般的だった女性賃金の別立て慣行による男女別の賃金を廃止し、賃金格差や低賃金、セクター間の賃金の格差が改善され、女性の実質賃金は男性より多く上昇した。大量生産産業での雇用の伸びの縮小とサービスセクターの雇用の拡大による構造変化によって、公共セクターではより平等な賃金が実現した。社会福祉サービスの拡大は、民間の整理解雇で仕事がなくなった女性だけでなく、新しく労働に参入する女性にとっても雇用機会となった。雇用制限をしていた民間セクターの男性は女性たちと仕事を直接奪い合うことなく、また連帯賃金政策のおかげで男性の置き換えの低賃金労働者になって労働市場を歪めることもなく女性は統合された。女性の労働参加は1990年までに約83%までに達した。男性稼ぎ主モデルから共働きモデルへの転換は、永続的な労働力の不足と、平等への要求で進められたのだ 。

オイルショックを経ても、スウェーデンの状況は、他の先進国とは全く異なり、主婦化という形で男性の雇用を守った正反対の形の日本と同様に、低い失業率のまま良好な経済を保った。

 オイルショック以降の世界的な不況により、ヨーロッパのほとんどの国で失業率が上昇し、その後の長期間の景気回復のなかでも不況前の水準には戻らなかった。しかしスウェーデンでは高水準の就業率にもかかわらず、1970年から1990年にかけて失業率が3.5%を越えることはなかった。この高い雇用率の理由のひとつには、ほぼ全労働者で組織されている労働組合の強力な存在があった。そして、この労働組合は平等主義的路線を採用し、これが女性労働者や未熟練労働者の広範な組織化を実現した。組合はこうした路線から、いわゆる連帯賃金政策を推進し、産業別、企業別の賃金格差を縮小してきた。1985年、相対的に高賃金の自動車と他の製造業の賃金格差は、アメリカが40%あるのに対して、スウェーデンではわずかに4%に過ぎなかった。こうしたスウェーデンの賃金政策は、自動車産業のような高い生産力を持った産業分野においては賃金コストが比較的低くなるという結果をもたらした。

スウェーデン国産車の製造に成功したのは1929年、製造業の後発国がゆえに、産業間の賃金格差が比較的少なかった。また連帯賃金政策をLOが戦後打ち出す背景には、産業労働者の170%という高賃金であった建設労働者の賃金が、LOの介入で130%に圧縮され、国民生活を脅かす建設労働者の賃金の高騰が調整された と言うような強い平等志向が歴史的に存在していた。公的なセクターの大きいスウェーデンモデルは、ケアワークの社会化によって雇用の女性化を進めサービスを供給する高福祉を実現するとともに、自治体自身が最大の雇用主でもあることであった。

現在の80%にちかい女性の労働力率は、60年代から80年代にかけての労働組合への女性の組織化や連帯賃金政策を含む平等志向の労働運動に拠るところが大変大きい。組織率80%を超える労働組合国家でもあるスウェーデンでは、男女のブルーカラー中心の労働組合によって雇用の不安定化や低賃金化やホワイトカラーとの格差が簡単に進まないシステムが機能し、それを公的セクターによって男女間において調整してきた。主婦を正規労働市場に引き出し、平等な賃金により、家族賃金を成立させない状況を作ったが、それによって、輸出産業の人件費コストを下げ国際競争力が増し、公的セクターの女性の雇用がさしずめ公的補助金のような形で作用した 。

こうしたスウェーデンの雇用・賃金・経済政策は、ハートマンやミースの批判する資本主義的家父長制の家族賃金と主婦化へのオルタナティブを示している。

大多数の成人男性が受け取る家族賃金が意味することは、他の者、つまり若年者や女性そして社会的地位の低い男性の低賃金を男性が受け入れ、かつそうなるように共謀したということである。女性、子ども、そしてより地位の低い男性の低賃金は、労働市場における職業上の隔離により強化され、さらに学校や訓練機関、家族などの補助的機関によっても、労働組合や経営者層によっても維持される。

主婦化とは、団体交渉の力を欠いた「不自由な労働者」として「自由な」賃金の稼ぎ手の男性労働者に結びつけられている。女性が「最適労働力」であるのは、彼女たちが今日普遍的に「労働者」ではなく、「主婦」であると定義されているからである。つまり女性の労働は使用価値においても商品価値においても明確ではなく、「自由な賃労働」としては現れず、「所得創出活動」と定義され、したがって男性労働者利もはるかに低い価格で取引されるということである。

「メイド論争」を継続して研究している社会学者エリノア・プラツェルが述べるように、他の先進国のように、極端な待遇の違う女性の非正規労働市場を作らない社会システムを模索していたといえる。

私は、この制度が二級労働市場を作り出すことになるのではないかということを議論したい。一般に家庭内サービスはそして特に家事サービスは、社会における分業における、特に、ジェンダーと階級の分業における影響の変化の関係において分析される。

アンペイドであろうがペイドであろうが、そうじは伝統的に女性によって行われてきたし、家事サービスによってこの伝統が変わらないことは明らかだし、むしろ強化されるのだ。・・・

・・・スカンジナビアの国々では、「平等規範」の存在は、家の中に雇った人を入れることを「禁じ」てきた。高い税金と比較的高い所得がこの規範を継続させてきた。

つまりスウェーデンの平等戦略は、アンペイドワークを担う女性が賃労働に参入し、家庭内労働のうち、育児や介護などケアワークは公的セクターによって社会化し、家事についてはアンペイドワークの時間を労働現場に保証させ(労働時間の短縮)、同時に男性を家事労働に参入させようとしてきたことにある。平等な賃金と所得の半分という高い税負担が家事労働の商品化を妨げ、その税金によって格安にケアワークを社会化することで、家庭内労働の軽減を図るシステムを形成してきたのである。

 しかしスウェーデンといえども下記のいうような例外的な社会であるとはいえまい。

  もし、女性労働の周辺化が起こらなかったという資本制社会が一例でもあれば、資本制構造に外在する特質として女性の周辺化を考慮するにやぶさかではない。(中略)資本制経済は女性の周辺化を必要とすると主張する際、女性の周辺化が起こらない資本制は論理的に認められない、と言っているのではない。・・・女性が二次的労働力として機能する家父長制的資本制が、唯一歴史的に可能な形態であるということである。

スウェーデンでは性別職業分離が大きく、また公的なセクターでの女性の偏在は有名だ。しかしそのゆがみは、民間から「積極的労働市場政策」で70年代の不況期に家庭ではなく公的セクターに女性を移動し、組織労働者として票田化した80年代のスウェーデンの政策の結果にすぎない。。そして、どの国よりも少ないとはいえ男性との賃金格差が存在し、女性の伝統的な職業に基づいた職業編成がされている以上、スウェーデンのケースがこの歴史的に可能な形態からの例外とはいえないであろう。

「男女平等」と家事労働者調達のグローバル化

1980年代より新自由主義の台頭とグローバル化により国際的な分業が拡大したが、ポスト工業化に伴い、多くの国で男女平等法、雇用機会均等法が制定され、女性の雇用率の割合も格段に進んだが、一方で現在同時に国際的な経済格差を活用した、国境を越境しての家事労働者の調達が進んでいる。ここ10数年の間に実際世界の移住労働者の女性割合は増加し、2000年で約半数が女性であり(国連「開発と女性の役割世界調査報告2004」)、増加する女性家事労働者をめぐる問題も頻発している。

より貧しい国からの家事労働者(女性)を(時に不法に)雇って、家事労働を肩代わりさせているのは、アメリカや香港やシンガポールなどで珍しいことではない。加えてスペインのように、これまで女性の労働力率の低かった女性の雇用労働力率の急成長が後発的な(40%未満)地域では、強固な男性稼ぎ手モデルが形作られ、フルタイムの労働が多く、働く母の家事労働・ケアワークの依存先は実母か南米などから来るスペイン語の話せる移民のメイドとなっている。 家事労働支援の公的な制度整備をすすめることをせず、女性の移民労働者を調達することで家事労働をまかない女性の進出が図られた結果、女性の平等な労働参加のためにグローバル経済の中で他国の女性の労働力移動―すなわちジェンダー役割の強化と再編―を引き起こし、移出国側の共同体の破壊という悲劇を引き起こしている .。逆に言えばこうした現象は「先進国の女性の平等が進むためには不可避」なのではなく、家事労働支援の公的な制度整備をすすめない政策をとった結果として起こっている、といえるのではないだろうか。

伊豫谷が、「グローバリゼーションと移民」の中で「男性中心の社会の経済メカニズムを維持したまま、女性の社会進出を促した場合、家庭内労働に対する需要を増大させるのは不可避である 」と、述べているが、家庭内の不払い労働時間を女性に課した形の賃労働を基準として、これまでにその不払い労働をになってきた女性をその賃労働の場に引き出せば、このような現象が生まれることは自明である。

周知の通り、家事労働がどう扱われるべきか、誰によって担われるべきか、は古くからフェミニズムにおいては大きな論点であったが、現在では、女性問題のみならず、世界的な規模での分業再編にかかわる大きな問題である。

伊豫谷はさらに次のように指摘する。

マーティンは・・・外国人労働者に依存する産業構造の是非はアメリカ人がどのような経済を欲するかによるのであり、不法移民が浸透していった職種は、低賃金であることによって作り出された「人為的職種」が多いという。ここで彼が例としてあげたのは家屋の清掃業である。時給2ドルであれば、同職種は急速に拡大し、1000万人の外国人労働の流入を引き起こすことになる。しかし、時給5ドルであればこれまでと同様に自分で清掃を行なうであろう 。

スウェーデンで右派政権の提案するこの家事サービス控除とは、5ドルの時給の仕事に3ドルを税金で還付して家事サービスの仕事を2ドルにして増やそう、と同様の提案だといえる。

賃金格差の大きいアメリカで、多くの不法移民を安く使って、女性が家事労働を回避し、男性並みの労働に参加できることで男女平等を達成させる方向とも、同じく公的なサービスが不十分な日本で、移民の代わりに主婦率が高く家族賃金システムによって低賃金が維持される主婦たちがワーカーズ・コレクティブやNPOをつくって、ケアワークを代替する方向とも異なるやり方を選択してきたスウェーデンにとって、この方向は、家事労働者の海外移動(移民の女性化)や、労働の二重化や周辺化の問題と実は密接に関係し、現在の格差を生む新自由主義的な趨勢と大きく関係することになる転換と捕らえられても不思議ではない。

スウェーデンでは、移民による周辺化が他の国ほどに起こらないひとつの要因は、近年あったラトビアの企業の事件 に見るように平等主義的に同一労働同一賃金が貫徹され、外国人に対してもスウェーデン人と全く同じ労働協約で働かせるように厳格に労働組合が守らせてきたからだ。

しかし、この事件もまた、EUの法廷で、同情ストの禁止や、外国の企業には同じ協約を結ぶ必要がないなどの判決が出て、スウェーデン集団主義的な社会システムが危機に立たされている。

フェミニズム理論の分岐点

スウェーデンフェミニズム理解の多くは、1.リベラルフェミニズム2・ラディカルフェミニズム3.社会主義ラディカルフェミニズムマルクス主義フェミニズム)と言う整理で、家父長制と資本制の一元論、二元論 といったものだが、そうではないフェミニズムの整理もスウェーデンの中にあるようだ。

簡単に紹介すると以下のような形で、ラディカルフェミニズム社会主義フェミニズムなどを女性が周辺化する立場理論としてまとめ、構築主義を脱本質主義として整理している

1. フェミニズム経験主義―リベラルフェミニズムから発生。ジェンダーを問題にしない。男女とも平等。女性の研究を付け加える。差別や構造の存在を通して男性の従属性を説明する

2.立場理論―ジェンダーの視点において本質主義者、ただ男女を違うものと見る。いくつか異なる伝統があるとして以下をまとめる。

・ スタンドポイントフェミニズムマルクス主義理論)

・ 社会フェミニズム理論(USA)

・ ラディカルフェミニズム

精神分析フェミニズムラカン、フランス)

   女性の従属を女性と女性の考え方や振舞い方が周辺化されるためだと説明

3. 構築主義理論―ジェンダーにおいて本質主義を採らない。男女は、ジェンダー特有の性格を持つ(社会的な特徴)。しかし、性は現実には構築され、学習される。女性の従属は男性性や女性性の構築によってあるいはジェンダー化プロセスによって説明する。

これは、右派政権下で基金によって設立された大学のフェミニズムの講義でされたパワーポイントの内容であるが、さらに、右派政権の拠って立つフェミニズムがどういうものかを追求してい区必要があるが、プラツェルの以下の規範の変化の指摘は家事サービスの控除制度に見るフェミニズムがどのような社会ビジョンを志向しているか理解しやすい。

自分でやろうという規範や、社会階層間の平等というかつての戦後期のスウェーデンでは重要だったものが、今や時代遅れだと少なくとも「キャリア志向の共稼ぎ家庭」においてはみなされている。

・・インタビューからもうひとつ面白い発見は、家事労働者の雇い主が主張する時間の圧力という理由は、実際深刻な問題になりえる。雇うことで雇用主の平等な時間が増えるようには見えず、かわりに仕事のキャリアにもっと時間を投入する機会になってしまうのだ。彼らはたいてい、家事労働者を雇うと、以前よりも長く職場にいるようになる。・・・・

大企業は、最も価値ある従業員に家事サービスを福利厚生として申し出る。従業員が、家事のくびきから解放されれば、通常の仕事にもっと努力を投入できるようになり、そのお返しに長時間労働を要求することが、雇用主にとっては多分より簡単になるだろう。

これは、「働きすぎのアメリカ人」への道、ともいえるかもしれない。同じ論文でプラツェルは、デンマークのように社民党政権のときに提案され、労働組合の規制などを含めて法律化されるように提案されればこのようにイデオロギー化しなかったかもしれないと述べている。

こうした転換への分岐として激しく論争されたと理解されるメイド論争から、労働者階層のイニシアチブによって集団的に解決しようとする世界的には特異な集団的な方法による不平等の解決方法がとられてきたスウェーデンの女性解放への方向性が、今現在グローバル化の中で、自己責任的な個人的解決によって、男女差別を解消しようとする英米的な趨勢の現代のトレンドに挑戦されているさなかであることを見ることができよう。それは大きな分岐点であるといえるが、必ずしも危機かどうかは定かではない。

90年代に導入されたニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の事例は、スウェーデンモデルの意外な強固さを示しているからだ。91年の政権交代で、イギリスのサッチャーが主唱した、サービスの公営独占を変えるものとして、市場化テストのようなかたちの民営への選択権の拡大を唱えて導入されたNPMによって、一部協同組合方式などの民間セクターの参入があったが、大きくは公的サービスの効率化につながり、行政サービスへの信頼感が高まり、公的サービスが交代することはなかったという。同一労働同一賃金で産別で賃金が厳格に決まるスウェーデンでは、人件費の削減目的の日本などで言われる民営化が不可能であることによる結果である。このようにシステムとして新自由主義への抵抗力を備えるスウェーデン社会であるが、今後右派の政策がどのようにスウェーデン社会を変えていくか、あるいはこのNPMの事例に見るように変えないでむしろ右派的な政策をスウェーデン的に活用してさらにスウェーデンモデルを強化していくかを注視していきたい。